大阪産業大学孔子学院 Confucious Institute at Osaka Sangyo University

孔子学院の意義

平成19年11月26日
光田明正
桜美林孔子学院学院長

桜美林大学・光田明正 孔子学院長グローバリゼーションの時代という。

日本では、まずは英語の普及を図り、グローバル化に対応しなければならないという。果たしてそれが正解であるか。 中国政府は、2004年に、孔子学院設立構想を打ち出した。グローバル化に対応して、中国語の普及、そうして中国文明への理解の拡がりを図るためである。

欧米文明と漢文明

今の世界は、科学、政治思想、経済運営など、欧米文明を基礎にしているものが、力を有している。 ただし、文明は一つか。 漢文明(中華文明)は、5千年の歴史を有し、19世紀半ばまでは、東アジアの共有文明であった。 グローバリゼーションが高唱される現代、このことに思いをいたす必要があろう。

世界は一つの文明に統一されているか。

グローバリゼーションという。対応として、英語教育を強化する必要があるといような例がある。あたかも世界の言語生活は一つになり、経済運営は一つの規範によって動いていると言わんばかりである。また政治のあり方は一つであるべきという動き・主張もある。 はたして、実情はどうか。世界人口65億のうち13億が中国人である。13億のうちどれだけが英語を知っているのか。また2億5千万のインドネシア、マレーシアの人々がいる。この人々の経済行動が、ニューヨークのビジネスマンと同じか。同じような契約の習慣を有しているか。 中近東の人々が欧米の人々と同じ政治信条を有しているか。 世界は色々な側面で、なお多元的である。 多元的文明の継承を図るべきではないか。

言語と文明

孔子学院は、言語と文明の関係について、重要な問題提起をしている。言語は文明の骨子とも言える。言語を知らずして、その文明を語れない。 したがって「国際語」として英語を習得したからとして、漢文明を理解することは出来ない。漢文明の健在を前提とするならば、漢語を学ぶ必要がある。 もう一つの問題は、言葉の習得だけで、その文明が語れるかという点である。英語を日常語としている欧米人は多い。しかしその人々がすべて欧米文明について語れるわけではない。中国語を日常語として話す人が、論語を語れるとは限らない。 言語は基礎であり、学習は必須であるが、そこに止まっては、知識人として、外国人としては余り意味がない。 しかし、現実にカリキュラムを組むに当たっては、相当に困難が伴う。工夫の要するところである。

孔子学院の構想

各孔子学院の構想は、各地各校の立地条件、社会背景により。多種多様であってよい。 文明を伝達すると言う見地から、文化講座に重点を置くところがあってもよいし、大学レベルの言語教育に重点をおくのがあってもよい。また中国との交流を孔子学院の特色を持たせて図るのもよい。 現実に、日本で言えば、立命館は文化講座が盛んであり、北陸は「遣中使」プログラムに重点を置いている。桜美林は、中国語特別課程を文部科学省の認可をも得て、正規の大学教育の一部として運営している。

日本の教育への「挑戦」

孔子学院が発足する以前にも、各国に中国語中国文化コースは大学に存在した。その違いは何かを考えなくてはならない。中国語に限って考えると、日本の外国語大学は、4年の課程を終えた後、その卒業生は必ずしも即戦力を獲得していない。桜美林の特別課程は一年の課程を終えた段階で、中国にある姉妹校に留学し、中国語で行なわれる授業を理解できるように指導目標をおいている。各孔子学院の文化講座も、高度な内容を分かりやすく話すという特色がある。漠然と聴講するということではなく、集中的に学ぶという特色がある。その観点から、日本の教育に対する挑戦と言う側面を有する。

日本の伝統と漢文明

日本に限っていうと、長い儒学の受容の伝統がある。漢文明に対する理解は、他の国と違い、かつて、漢文が普通に学ばれていたという様相から見られるように、普遍的なものであったともいえる。その伝統を念頭において、孔子学院の構想を図るのが妥当である。 同時に、従前の漢文明理解が、どのような理解であったかについても、考えを及ぼす必要がある。論語の解釈について、中日において相当に異なっていたという側面もある。

今後の発展

孔子学院は、発想段階では、中国政府は、世界中に100校、各国1校と企図していたが、すでに190校にもなり、日本だけでも10校を超える。これは、孔子学院のもつ意義に共鳴する人々の多さを物語っている。 多元的文明を認識し、各文明の間で調和の取れた関係を打ち立てるという観点を忘れずに、単なる語学学校に堕することなく、また偏狂な文明の主張に陥ることなく、孔子学院の発展をはかりたいものである。


孔子学院章程

光田明正先生のプロフィール

1936年 台北に生まれる。
1959年 東京大学経済学部卒業。
1960年 文部省入省。
1962年 カナダ・マニトーバ大学留学。
1966 年 Eisenhower Fellowとして全米を訪問旅行。
1973年 OECD日本政府代表部一等書記官.様々な 教育科学関係国際会議に出席。
1977〜81年 文部省留学生課長. この間、日中留学生交流が始まり、その促進に尽力、日中留学生交流の路線を引く。
1987年 大臣官房審議官(学術国際担当)。
1988年 国際交流基金常務理事。この間、諸国との文化交流の促進に尽力。一例、北京大学の現代日本研究コースの創設推進。
1992年 桜美林大学教授。 桜美林大学と米国、中国の大学との関係を強化。 この間1993に米国のUCSD(University of California, San Diego)、 2000にUCLA(University of California, Los Angeles)客員教授。
2001年 長崎外国語大学・長崎外国語短期大学学長に就任
2005年  学長退任。 桜美林大学客員教授・秋田国際教養大学客員教授就任
2006年 桜美林大學孔子学院学院長に就任

著書 @中華の発想と日本人(1993講談社)、 A「国際化」とは何か(1998 玉川大学出版部)

2006年春 瑞宝中綬章を受ける
  (財)留学生支援企業協力推進協会理事
  (財)とうきゅう外来留学生奨学財団理事
  (財)中島記念国際交流財団理事
  (財)岡本国際奨学交流財団理事
  (財)大学セミナー・ハウス理事
  (財)言語教育振興会評議員
  (財)エプソン国際奨学財団評議員
  (財)波多野ファミリースクール評議員 長崎県音楽連盟副会長